知らないことを知っている

無知の知は最強の論理だ。何せ「すべてのことを知っている」というのは到底難しいことだが、「私は自分がすべてのことを知っているわけではないということを知っている」というのはいわば誰にでも言えることであり、誰にも否定できないからだ。

「アニマルスピリット」を読んで思った。マクロ経済学が示す論理は、人々が合理的な行動をとることを前提としているが、現状でもバブルや恐慌が起こるのは、その合理的な行動を人々が実際には取らないことによる。その不合理な行動を説明するのがケインズ経済学において「血気」と訳された「アニマルスピリット」である。アニマルスピリットの原因となるのは「安心、公平さ、背信と不安、貨幣錯覚、物語」などがあげられている。人々はこれらの事柄を妄信的に信じてしまうことによって、IS-LM分析による雇用の均衡点から自ら外れるような行動をとってしまうということである。
この類の本は、「まぐれ」や「ブラックスワン」などさまざまあるが、マクロ経済学の揚げ足取りというよりは、その欠点を補うものとして十分に価値があるものと考える。ただ、問題なのは、バブルの時にはこのような本は読まれないということだ。「すべてのことを知ろうとする」姿勢のときにも、無知の知をことを忘れないようにしなければならないが、難しいのはやはり「アニマルスピリット」によるものなのだろう。

アニマルスピリット

アニマルスピリット